老ヴォールの惑星(小川一水著)

ここのところSF関係の本から離れてたので、リハビリついでにチョイスしてみた。
なるべくネタバレしないように書くのは難しいのだけど、ちょっと頑張ってみようかと思う。

 この物語の舞台は、恒星に非常に接近した軌道をとる巨大惑星に発生した知的生命体が、
ある出来事で彼らの住む惑星以外の知的生命体とコンタクトをとらざるを得ない状況に陥り、
その辺を彼らの生態系の風変わりな点を描いた短編である。

 まあ人類の生存できない環境に知的生命体が発生するという発想は、
今まで読んだ中にもたくさんある(竜の卵やら重力の使命やら、サンダイバーとか、ロシュワールド(はちょっと違うけど、人類がそのままで生存するのは困難そう)とかちょっと思い出すだけでもこんなもん)のでその辺に新鮮味はないし、
社会構造が珍奇な点もそれほど目新しくはないのだが、他の知的生命体へのコンタクトのとり方やら、なぜ彼らが必死になってコンタクトしなければいけないのかが目新しくて面白かった。
 最後の結末もハッピーエンドとは言えない部分があるのだが、それでもファーストコンタクトを人類と行えた彼らと、
その後に続く巨大惑星への地球外知性体とのコンタクトの架け橋になるという結末は個人的には好きな部類の結末だった。

 とまあ思いついた事を書いてるけど、この短編が心の琴線に触れた一番の理由は、
やっぱり自分たち以外の知的生命体を探すという事を彼らなりにできる事を考えて実行するシーンや、
登場人物に基本的に長老は若者に知識や知恵を教え、
若者は好奇心に任せた行動を行うというある意味で理想的な社会を描いてる部分だ。
(いやまあ実際はそれだけじゃないような生態系を描いてるんだけど、これ以上はネタバレなのかと思うので…)
他にも3編あるけどそれぞれ面白い仕掛けをしてあって、面白い。
で、読んでて思うのだけど、小川一水は人間性というものを信じていけるものとして描いていて結構気持ちよく読める。
その代わり泥臭さは感じられないけど、どんな窮地でもユーモアあふれる描写が多くて、
くすっと笑えるのが多く、その辺も読みやすさにつながっているのかもしれない。
 
さらっと読める本なので、読書が苦手でSF初心者で興味が湧いた方は読んでみて欲しい。
そして読書の楽しみを覚えて欲しいなぁ。