遠き雪嶺(谷甲州著)

で、今回取り上げる本は昭和11年に立教大学山岳部がヒマラヤのナンダコートへの登頂を行った事を基に描いた小説である。
去年文庫化されたのを今頃見つけて読んでるんですが、
「遥かなり神々の座」の頃よりも登場人物の行動(神々〜の頃は、山中での逃走経路とかがわかりにくかった、本の最初に付いてる地図見ながら読んでいて集中できなかった覚えがある)
と自然描写(今回の場合は簡潔だけどベースキャンプまでのトレッキング中のヒルの描写とかベースキャンプ手前の草原とかが、うまく表現されていた)
がすっきり表現されていて、わかりやすくなっていて面白い。

やはり山岳小説書き始めの頃よりも今の方が書き慣れててうまくなったのかとか、
フィクションでなく史実を基に登場人物のひとりの堀田弥一郎氏にインタビューしたとか、
資料を読み込んで書いてる分、話を整理しやすくて書きやすいのかなとか思う。
まあ、この手の実在する人物の場合は逆に書きにくい面もありそうなんだけど、
これだけ淡々と行動していく人物として描かれると、あまり文句をつけにくいんではないかと思う。

谷甲州の文体はいつも思うんだけど、山岳小説のような淡々とした描写をする話にはぴったりな文体だ。
美文とはどうにもいえない文体なんだけど、逆に冷静な視点で描かれる自然や人物の描写が好きで、買い続けている。
いつも読んでて思うのは、女性を描くのは昔から下手だよなと思う。冷静で行動力ある女性しか書けずに、読んでて平板な印象ばかりで魅力がない。
もうちょっと行動力無くって、見てていらいらするくらいほんわかした女性とか、嫉妬に駆られてもの凄い事しでかす女性を出せるようになれば幅が広がるのにとか思うんですが。
まあ、ラマ僧が輪廻転生しちゃう山岳SF小説とか、冬のシベリアで逃げたり追っかけたりとか、宇宙戦争であーだこーだとか、仮想戦記とかが得意な人にそんな事行っちゃいけないんでしょうけどね。

話がそれた、女性描写が苦手な代わりに東南アジア系の男は妙に生き生きしていて魅力がある人物造形が出来るんですよね。
今回だとアンツェリンという人物が人懐っこい人物像で、日本から来た隊員たちのために一生懸命サポートする姿が印象に残った。

とまあ、いろいろ書いてるんだけど、言い回しがくどくなくてあっさりしてるので読みやすいし、
小説としても起伏に富んだ話なので、ちょいと気分転換に読むのにお奨め。